最後の一つを、誰の分にするか決める務め

iza

一冊の御用帳

最後の一つを、誰の分にするか決める務め

御用帳に記されていたのは、甘い五つの行き先だった。御家人は、小町の横路へ入り、最後の一つを誰の分にするか決めに向かう。

所要時間
約1時間30分
軍資金
1,000〜2,500円
歩行量
少なめ
旅のテーマ
人に渡す分と、自分に残す分
記事の種類
通年

朝、文机の上に小さな紙片が置かれていた。

白い紙である。

御用帳ほど重々しくもなく、巻物ほど仰々しくもない。

ところが、そこに書かれていた内容はなかなか面倒だった。

横路の菓子処へ赴くべし。
五つ並ぶ甘い板のうち、最後の一つの行き先を決めよ。
ただし、自分の分を最初に数えてはならぬ。

御家人は三度読んだ。

「甘い板とは何だ」

御用帳は、紙片の下でだんまりを決め込んでいる。

「最後の一つとは、最初の四つがあるということだな」

返事はない。

「自分の分を最初に数えるなということは、数えなければよいのか。あるいは、最初ではなければよいのか」

縁側にいた白猫が、こちらを見た。

「そなた、今のうちに頷くか首を振るかしておけば、話が早いぞ」

白猫は欠伸をした。

古い石の上にいる三毛猫は、初めから関わる気がないらしい。

「よい。私一人で考える」

御家人は立ち上がり、懐へ紙片をしまった。

五つの甘い板。

最後の一つ。

自分の分を最初に数えるな。

甘いもの一つで、なぜここまで言葉が回りくどくなるのか。

御用帳は、たまにこういうところがある。

第一章横路を探す

赤い橋を渡り、御家人は町へ下りた。

二の鳥居を過ぎ、長い道を少し進む。

朝の鎌倉には、すでに人が多い。

光る板を掲げる者、土産を探す者、道の真ん中で急に立ち止まる者。

その中を抜けながら、御家人は「横路」という言葉について考えた。

横路とは、何かの横にある道である。

しかし、道というものは大抵、何かの横にある。

家の横。

店の横。

塀の横。

よって、だいたいの道は横路ではないか。

御家人は、そう結論づけた。

結論づけたが、それでは目的地が定まらない。

小町通りの入口まで来たところで、御家人は店先を掃いている女へ尋ねた。

「そなた、横路はどこだ」

女は箒を止め、道の脇を指した。

「そこの横を入ったところですよ」

「この道の横か」

「はい」

「どちらの横だ」

「そこです」

女は笑っていたが、御家人にはあまり笑いどころが分からなかった。

言われた方へ入ってみると、たしかに少し静かな道が伸びている。

小町通りの賑わいが、背後へ一枚薄くなるようだった。

「なるほど。横路とは、横へ入ると少し落ち着く道のことか」

誰も答えない。

だが、その解釈は悪くない気がした。

第二章甘い板の在処

道の先に、小ぢんまりとした店があった。

菓子の気配がする。

正確には、甘さと香ばしさが混じった、気持ちの落ち着かない匂いである。

御家人は少し姿勢を正した。

甘いものを前にすると、人は油断する。

務めの途中ならなおさらである。

店の中には、小さな箱や包みが並んでいた。

そのどれもが整っていて、あらかじめ「贈る」ことを考えている顔をしている。

御家人は、そういう顔の物が少し苦手だった。

贈る相手のいない者には、はじめから一歩分だけ距離があるからである。

「五つのものを頼む」

御家人が言うと、店の者は静かにうなずいた。

ほどなくして、小さな箱が一つ、御家人の前へ置かれた。

中には、きれいに五つ並んだ菓子が入っている。

甘い板とは、これのことらしい。

しっかりした生地に挟まれた、くるみと甘い色の層。

見ただけで、指先が少し落ち着かなくなる。

「これが五つか」

見れば分かることを口にしたのは、自分でも分かっていた。

店の者は、そういう客にも慣れているのか、静かにうなずいただけだった。

「最後の一つの行き先を決めるよう命じられている」

御家人が正直に言うと、店の者は少しだけ笑った。

「よろしければ、カフェでゆっくり召し上がりながら考えてください」

「考えながら食べてもよいのか」

「はい」

「途中で考えが変わってもか」

「そのための時間かもしれません」

御家人は、その言葉に少し納得した。

菓子を買うことと、食べることの間に、考える時間を置いてよい店らしい。

それはなかなか親切である。

第三章五つの行き先

御家人は店の中で席を得て、箱を前にした。

五つの菓子が、整然と並んでいる。

こういうものは、ひとたび蓋を開けると、急に数え方が難しくなる。

一つは今ここで食べる分。

一つは屋敷へ持ち帰る分。

一つは白猫に見せて自慢する分。

一つは三毛猫の前へ置いて反応を見る分。

そう考えると、もう四つ埋まってしまう。

「猫に菓子はよくないな」

御家人は自ら訂正した。

では、一つは白猫へ見せるだけの分である。

これは数に含めるのか。

含めないのか。

御家人は額へ手を当てた。

隣の席では、二人連れが菓子を半分ずつ分けていた。

向こうでは、一人客が茶と一緒にゆっくり味わっている。

また別の席では、箱を開けず、そのまま大事そうに包みへ戻している者がいた。

誰もが同じ菓子を前にしているのに、行き先は一つではない。

「厄介なものだな」

御家人は一つ取り上げた。

まずは味を知らねば判断できぬ。

それは務めのためであり、食べたいからではない。

この理屈に無理があることは、自分でも少し気づいていた。

ひと口かじる。

しっかりした生地の間に、くるみと甘い層がぎゅっと詰まっている。

思っていたより重くなく、しかし軽くもない。

噛むと、くるみの食感が残る。

「これは……」

御家人は黙った。

たいそう気の利いた感想を言うつもりだったが、口の中が忙しく、それどころではなかった。

「なるほど。五つになる理由がある」

一つ目は、すぐに行き先が決まった。

御家人の腹の中である。

だが、それは最初に自分の分を数えたことになるのではないか。

御家人は急いで御用帳を開きかけ、やめた。

今ここで問い詰めると、たいてい話が複雑になる。

一つ減って、残りは四つ。

「一つは屋敷へ持ち帰る」

これは決まりでよい。

では、残り三つはどうするのか。

贈る相手もいないのに、贈る顔の箱を抱えて帰るのは、少し気恥ずかしい。

だが、全部を自分のものと決めるには、どこか後ろめたい。

「なぜ甘いものには、分ける気配が最初から宿っているのだ」

隣の席から、小さな笑い声が聞こえた。

聞こえていたらしい。

御家人は咳払いをして、茶を飲んだ。

第四章最後の一つ

二つ目の行き先は、すぐ決まった。

帰り道の自分である。

帰り道の分は、今の自分とは別である。

歩き終えた後の自分は、すでに少し疲れており、別の者と言ってもよい。

これはうまい理屈だと御家人は思った。

三つ目は、屋敷で御用帳の横に置くことにした。

御用帳そのものは食べない。

しかし、務めの成果として見せるくらいは許されるだろう。

四つ目は、白猫と三毛猫の前へ、同じ距離に置いて眺めるためのものとした。

食べさせるわけではない。

あくまで眺めるためである。

そこで、最後の一つだけが残った。

箱の中に、きれいに一つ。

御家人はその前で止まった。

この一つを誰かのために残すべきか。

それとも、自分の分として認めるべきか。

自分のために残した途端、これまでの理屈が、少しせこく見えてくる。

「最後の一つを自分にするのは、ずるいのではないか」

誰に聞いたわけでもない。

すると、向かいの席へ置かれていた空の皿が、かすかに揺れた。

風かもしれない。

あるいは、誰かが立ち上がった拍子かもしれない。

その時、御家人はふと思った。

人へ渡す分ばかり先に決めると、自分の分はいつも最後になる。

最後に残ったものを、自分で受け取ることに慣れていないだけではないか。

御家人は箱の最後の一つを見た。

見られている気もした。

「そなたは、最後まで残ったのだから、最後の者にふさわしい」

菓子は何も言わない。

「最後の者とは、結局だれだ」

御家人は少し考えた。

そして箱を閉じた。

「これは、今日ここまで歩いた者の分だ」

つまり、自分である。

だが、朝の自分ではない。

途中で迷い、横路を探し、ひとつ食べ、いくつも理屈を並べ、まだ少し迷っている今の自分である。

それなら、最初に数えたことにはならない。

おそらく。

第五章帰り道

店を出ると、小町通りの賑わいが戻ってきた。

先ほどより人が増えている。

光る板を掲げる者は相変わらずで、急に立ち止まる者も相変わらずだった。

御家人は箱を抱えて、来た道を戻る。

二の鳥居へ向かう途中、段葛の脇で少し足を止めた。

最後の一つを出す。

包みを開き、ひと口かじる。

先ほどより少しだけ、甘さが落ち着いて感じられた。

茶がなくても悪くない。

歩いてきた者の分というのは、なかなか正しい気がした。

赤い橋まで戻ると、白猫が欄干にいた。

御家人の持つ箱を見る。

「これはまだある」

白猫が寄ってくる。

「そなたのではない。見せるための分だ」

白猫は箱の匂いを嗅ぎ、興味深そうに尻尾を動かした。

庭の古い石の上では、三毛猫が目を細めている。

御家人は文机の上へ箱を置いた。

御用帳の横へ、一つ。

猫たちの前に、少し離して一つ。

そして、自分の席の前にはもう何も残っていない。

「最後の一つの行き先は決まった」

御家人が言うと、御用帳の頁の隅に短い一行が増えていた。

最後まで残した者は、最後に受け取ってよい。

「初めからそう書け」

白猫が包みの方へ前足を伸ばした。

「待て。そなたは受け取ってはならぬ。ただ眺めよ」

白猫は待たなかった。

御家人が慌てて箱を持ち上げる。

三毛猫の尾の先が、わずかに揺れた。

どうやら、屋敷へ持ち帰った後の務めも、そう簡単には終わらないらしかった。

この旅の正体を見る

御家人が辿り着いた場所

今回の行き先は、鎌倉紅谷 小町横路店です。

鎌倉紅谷の定番商品「クルミッ子」を買える直営店のひとつで、小町通りから少し横へ入った場所にあります。ショップだけでなくカフェも併設されているため、買って終わりではなく、店内で一度落ち着いて味わう時間まで含めて楽しみやすい店舗です。

物語で御家人が探していた「横路の菓子処」は、この小町横路店をもとにしています。

また、「五つ並ぶ甘い板」は、クルミッ子5個入を下敷きにしています。クルミッ子は、自家製キャラメルにクルミをぎっしり詰め、バター生地で挟んだ鎌倉紅谷の定番商品です。

小町横路店の基本情報

小町横路店の住所は神奈川県鎌倉市雪ノ下1-2-2です。

最寄りは鎌倉駅東口で、公式案内では徒歩7分です。駐車場はありません。

営業時間は、ショップが9:30〜17:00、カフェが10:00〜17:00です。不定休のため、訪問前に営業日案内を確認しておくと安心です。

カフェ利用について

小町横路店のカフェは、1階席は終日予約なしで利用できます。

2階席は10:30〜11:50のみ予約対象で、12:00〜17:00は予約なしで利用可能です。ラストオーダーは16:30です。

予約は専用予約サイトから、30日前〜前日まで受け付けています。電話予約はできません。

混雑状況によっては入店待ちが発生することもあるため、確実に2階席を使いたい場合は予約枠の確認がおすすめです。

商品についての注意点

鎌倉紅谷の公式案内では、各直営店で開店前から多くの来店があり、「クルミッ子」を中心に短時間で完売が続いていると案内されています。

そのため、早い時間に行っても購入できない場合があります。必ず買える前提ではなく、「買えたらうれしい」くらいの気持ちで組むと、散策の流れとしては気が楽です。

物語との対応

物語の中で御家人が悩んでいた「最後の一つ」は、贈る分と自分の分の境目をどう考えるか、という迷いです。

小町横路店は、誰かへの手土産を買う場としても、自分のためにカフェでひと息つく場としても使えます。

小町通りの賑わいから少し横へ入り、そこで座って考えられることが、この店のいちばん物語向きなところです。

所要時間

二の鳥居から小町通りを歩いて小町横路店へ向かい、買い物やカフェ利用をして二の鳥居へ戻る場合、約1時間〜1時間30分が目安です。

カフェでゆっくり過ごすなら、2時間ほど見ておくと余裕があります。

立ち寄りのコツ

午前中〜昼すぎは動きやすく、小町通りを含めて散策しやすい時間帯です。

人通りの多い通りなので、立ち止まって写真を撮る時は後ろの人の流れを妨げないよう注意してください。

また、人気商品は売り切れることがあるため、目的がはっきりしている場合は、散策の最後ではなく途中で先に立ち寄る方が安心です。

御家人の足取り

答え合わせ後の実用控え

この務めの覚え書き

所要時間
約1時間30分
軍資金
1,000〜2,500円
歩行量
少なめ
おすすめの時間帯
午前中〜昼すぎ
行き先
鎌倉紅谷 小町横路店
最寄り駅
鎌倉駅
旅のテーマ
人に渡す分と、自分に残す分
務めの種類
鎌倉へ参る
記事の種類
通年
公式確認日
2026年6月19日

記録の余白

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